加藤寛氏と対談:中西真彦氏

「経済復興と企業の活性化」 1998年 11月13日9:00〜12:30

 昨日に続きまして、今日も「日本復興計画」について、企業の問題を含めながら論じていきたい
と思っておりますが、まずは中西真彦さんに「経済復興と企業の活性化」というテーマで問題提起を
していただこうと思います。よろしくお願いします。

中西真彦
 前半は、いま赤ランプが点滅しているわが国の経済がどうしたら浮揚するかを、行政改革委員会や
政府の諸々の審議会に出席した体験を踏まえて国家的な視点で申し上げたいと思います。後半は、
企業ベースで産業界の活性化をどうしたら成し遂げられるかを申し上げたいと思います。
 まず、現在のわが国を譬えれば、左足が極端に前に出すぎて、国家という身体がバランスを崩して
倒れそうになっている状態だと考えております。したがって、いま成さねばならぬことは、少々の異論
には目をつぶっても、右足を、ちょっと前に出すのでなく、左足よりも前に思い切って踏み出す、
ということであろうと考えております。
 といいますのは、戦後しばらくの間、日本は官民一体で力を合わせて大変な成功を成し遂げたわけ
ですが、ある時点から官が極端に肥大して、官主導の傾向が非常に強くなり、このシステムが機能
不全に陥ったのです。この官主導の行政の根にある哲学は、一言でいうと「広く、あまねく、公平、
平等」です。このような一つの社会主義的な理念を政府は「マグナカルタ」にして行政を運営してきました。
大蔵省の護送船団しかり、企業行政しかり、諸々の省庁がみなそういうことをやったのです。
 また、 日本の社会保障費はほとんど歯止めがかからず、どんどん増えた結果、いまわが国の財政を
破綻させるところまできている。これも社会主義的な理念が根底にあったからと私は見ています。
 そこで、この国のかたちをいったいどう変えていくのか。いまこそ「コペルニクス的転回」ともいうべき
思い切った逆転の発想をやるべきだと思います。
 それは小さな政府をめざすものであり、官主導の行政の仕組みではダメです。かつて英国のサッチャーは、
「重税こそが重規制である」と明快に語っています。税の重荷を民間から取り除くことが規制緩和の柱で
あるとはっきり断定し、それを行政改革の出発点であり、民間主導の国づくりの原点であるとはっきり
打ち出しました。したがってわが国も、思い切ってかつ大規模に、しかも迅速に、改革のための発火点を
税制改革に置くべきだと思います。大幅な減税政策こそ改革の発火点になりうると考えています。
 従来の景気浮揚策はご承知のように、ケインズ流の財政出動をやるということですから、歳出を増や
します。すると当然、財源が必要になるので歳入も増やす、というパターンでした。しかし、私はあえて
大規模に「歳出を減らして歳入も減らす」という方策に至急取り組むべきだと思います。
 具体的には、ややラジカルですが、まず歳入を最初に減らす方法としては、法人税の実効税率46.36 %を
40%に下げるという案が出ていますが、30%ぐらいに一気に下げる。所得税についても、最高税率65%を
50%に下げる案がありますが、思い切って30%ぐらいにすべきである。相続税については、たかだか1兆円
そこそこの税収ですから、全廃するぐらいの方針を打ち出すべきである。
 ではなぜ、いま大幅減税が必要なのでしょうか。景気回復のためには、いまでも多くの人が「公共工事を
もっと増やせ」云々といいますが、道路を掘ったり埋めたりしている在来の公共工事の乗数効果は現在、
1.2 ないし1.3 といわれ、産業界全般への効き目は低下しています。建設関連の方々はもちろんお喜びで
しょうが、わが国経済全体の視点からいえば、いまのように無目的な公共事業のあり方は思い切って変え
ていくべきなのです。
 大幅減税の早期断行が必要な二つ目の理由は、日本政府の政策不在に対する不信感から、海外の
邦銀の支店や日本の大手企業でも、ドルの調達が非常に困難になっており、日本国内から円を海外支店
に送金してドルに換えるようなことをやっている。これが1年間で10兆円ほどの規模で、どんどん流出して
いる。その結果、国内では貸し渋りというよりは貸し出し金の引き上げが起こっており、中小企業は大変な
目に遭っているわけです。
 一つには、銀行のBIS基準の適用で、銀行自身が貸し出し枠を縮小せざるをえないという事情がある。
そしていま一つの事情としては、対外的な信用が低落して、外貨が調達できない。そこで、円がどんどん
海外へ流出する。だから、ここは何としても一本、柱の通った骨太の経済政策を打ち出し、海外からの
信用も回復しないと、日本の金融事情はますます切迫したものになるでしょう。とくにこの年末、海外
金融機関の資金をどう手当てし、これをクリアするかという課題が目の前に迫っているわけであります。
 もはや、絆創膏を貼ってしのぐような経済政策を積み重ねてもダメで、思い切った大幅減税のシナリオ
を内外にきちんと示すことが急がれている。今日の新聞によりますと、政府が11月の臨時国会で大幅
減税を先送りし、来年の通常国会でやるといったため、株価がまた300円ほど下がりました。
 先週、政府税制調査会があったのですが、この大幅減税の財源を大蔵省と自治省が押しつけ合っている。
大蔵省は地方自治体の分を下げろといい、自治省は中央政府でやってくれという。大蔵省と自治省の双方が、
いかに自分のところの財政が苦しいかということを説明しているんです。結局、一般政府の財政枠のなかで
たらい回しをしているだけで、こんなことをいまどき議論している暇はないわけです。それほど行政の仕組みは
縦割りで、制度疲労を起こしているといわざるを得ない。
 さらに始末が悪いことに、自治省の後ろにも、多くの族議員がついている。とくに来年3月は統一地方選が
あるので、自治省と地方選出の国会議員あたりがぐるになって、これを大蔵省に押しつける。大蔵は大蔵で、
これを突っ張ってるということで、埒が明かない状況です。
 政府の役人は3〜4カ月遅れても大したことないんじゃないかと思っているのかもしれませんが、われわれ
中小企業にすれば今月をいかに越すかという状況です。昨日入ったニュースでは、去年ニュービジネス
協議会から最優良ベンチャーの表彰を受けた企業が、たった50万円の手形が落とせなかったばかりに、
先週、倒産いたしました。そういう事態が、いまどんどん進んでいるんですね。ここは一刻も早く、思い切った
経済政策を打ち出すべきであります。
 それからシナリオの第2章ですが、減税だけしてもダメです。ですから、減税の2、3年後を目途に、
財政支出を減らすということです。その中身は、一つは地方交付税交付金を全廃、一つは公共事業を半減、
一つは補助金を半減するというものです。
 なぜなら、日本の国民は知的レベルがかなり高いので、減税すれば赤字公債をどんどん発行するのだから、
いつかまた大増税がくることぐらいわかっています。したがって、少々減税して可処分所得が少々増えても、
将来的な生活防衛を第一に考え、消費ではなく貯蓄に回すことになります。大減税の効果を十二分に発揮
させるためには、国民が将来に不安を抱かないシナリオを同時に示す必要があります。いまいったように、
在来型の各省庁の予算を一律カットする「シーリング方式」ではダメで、一般会計の半分以上は地方に金を
回しており、この膨大な無駄を何とかしないといけません。
 一例を挙げますと、「緑のおばさん」はボランティアだと思っていたのですが、東京都のある区では年収
700万近いお金を払っています。これでは、いくら税金を取っても足りません。人口は減っているのに、
地方自治体の職員は増えている。いま各都道府県に不必要に立派な県庁が建ってますが、なぜそれを
県民が容認するかというと、県民は何ら腹が痛まないからです。建設費の7割〜8割は中央政府からの
交付税交付金と補助金で、足らなければ地方債を発行する。これも政府が財投の金で買ってくれるので、
政府の実質財源は2〜3割ぐらいです。この無駄をなくさないかぎり、日本はよくならないのです。
 こういうことをいうと、「お前のいうことはけしからん。そんなことをやったら、地方産業が壊滅するじゃないか」
という反論がすぐ出てきますが、私はそうは思いません。なぜなら、大幅減税を所得税30%、法人税30%まで
下げれば、国民の懐はたいへん潤います。そして先ほどもいったように、何年後かに思い切った行政改革が
行なうことを政府が打ち出せば、国民は安心してタンス貯金をやめ、消費は動きだすはずだからです。
 地方の企業も困らない。法人税を30%に下げれば、設備投資も盛んになるだろうし、研究開発に金が
使えます。困るのは地方自治体ぐらいです。たとえば東京都には10万人もの職員がいますが、企業の
感覚でいえば半分で十分です。職員数を減らせば、十二分に財源は出てくるわけです。
 数週間前に、駐日アメリカ大使のフォーリーさんとわれわれ財界人10数人で朝食会をしました。
そのときにフォーリーさんが「日本はいま、22ある中央省庁を10にするということだが、地方行革は
ほとんど進んでいないじゃないですか」と鋭い質問をしました。地方行革をほとんど進めないで中央省庁
の再編をやったら、スモールガバメントどころか、ラージガバメントになるんじゃないかということをおっしゃったんです。
私も同感だということを申し上げました。地方分権委員会が5年間も議論をしているが、あそこの委員長を
やっておられる方には失礼なんですけど、事実を申し上げないといかんわけで、この地方分権委員会は
5年間、野球にたとえればほとんど出塁してません。ウェイティングサークルでバットを振り回しているだけ
なんです。このまま放っておくと、地方行革はまさに掛け声倒れに終わるわけで、おそらく50年議論しても、
100年議論しても、掛け声倒れに終わるでしょう。結局、財政から切り込みをかける以外ないわけです。
政治家の決断で、交付税・交付金を全廃するとか補助金を半減するといった歳出削減の方針を、
私は減税と同時に打ち出すべきであろうと考えております。
 次に、金融システム安定化の手は一応打たれています。各大手銀行に公的資金が導入されるでしょう。
しかし、金融危機が解決しても、景気浮揚の保証は何らありません。坂を転がり落ちていたのが止まる程度です。だから、所得減税、法人税減税に合わせて、一番実体経済に乗数効果のある市場に向かって、一本ズバッと政策減税をやるべきだと思います。

 一番効果のある市場は、土地を含めた住宅市場以外にないでしょう。住宅はその乗数効果たるや大変なものです。鉄鋼、木材、インテリア、家電というように、ありとあらゆる業種に波及します。道路をほじくり返す公共工事とは全然ちがうわけでして、ぜひここに新しい政策減税を打ち出してほしい。たとえばアメリカ式に、住宅ローンの利子を無条件に全額・全期間にわたって減税すること。アメリカではそれが重要産業の復興の要になっているわけですから、わが国でもそれをやるべきだと私は税調でもいい続けているわけです。
 このような政策を打ち出して景気が少し上向いたら、今度はこれを息長く続けなければなりません。そのためには、大変な波及効果、乗数効果があるビッグプロジェクトを実行することです。たとえば、東京湾の湾央あたりに巨大なハブ空港を建設する。実は羽田と新木場にターミナルをつくって、都心からそれぞれ15分でつなぐような大プロジェクトがありまして、私もその立案メンバーに加わっているのですが、これはぜひ政府に働きかけて推進していきたいと思っております。
 次に、産業の活性化という後段の問題に入りたいと思います。わが国の産業界の現状は製造業を中心に著しく空洞化が進んでいます。ほんの一部の元気企業を除き、在来型のコーポレート・ガバナンス(企業統治)やコーポレート・システムは大きく変えざるをえないのです。これもまさに、左足に代わって右足を思い切り前に出さなければならないということなのです。
 具体的には、大競争時代に入ると、終身雇用制はキープできないでしょう。年功序列型賃金体系も思い切って能力型に変えていかなければならないし、派遣社員をはじめ労働形態も変えていかざるをえません。メーンバンク制や株式の相互持ち合いといったコーポレート・ガバナンスも変わっていかざるをえない。あるいは、巨大企業を頂点にピラミッドのようにつながっていた中小企業のあり方も当然、変わらざるをえません。いまや、不敗の横綱といわれた大企業が巨大な赤字を出すような時代にきているからです。
 冷戦後、東欧諸国やASEAN諸国が非常に低いレイバー・コストで産業界に参入してきたので、否応なしに競争は激化しています。それに日本企業が対抗するためには、唐津一さんが「棲み分け論」を唱えていますが、在来型の製品の生産はASEAN諸国にやはり譲っていかざるをえないでしょう。私どももベトナムに工場をもっていますが、日本の工場の職長1人の給料で、ベトナムでは50人から100 人のワーカーが雇えますし、非常に優秀ですから、いずれ日本がやられるでしょう。
 ですから日本企業は、やはりハイテク分野で「第二の創業」に挑戦すべきです。ベンチャー企業だけに任せずに、既存の数百万の中小企業が企業内創業に挑戦すべきだと思います。

 通産省も昨年、私もメンバーの一人である産業構造審議会が「経済構造の変革と創造のためのプログラム」と銘打ち、2010年を目標にこの改革を進めれば、雇用規模はいまより740 万人、GDPを350 兆円増やすことができるという計画を発表しました。

 そのなかで成長15分野を打ち出していますが、それは医療、福祉、情報通信といった、同じ製造分野でも新しい情報技術を駆使した新製造技術の分野などに向かって、日本の既成企業が、新しいコーポレート・ガバナンス、新しいコーポレート・システムを採り入れ、柔軟に経営を運用しながらハイテク技術を武器に、第二の創業に挑戦するべきなのです。
 この第二の創業には、三つの条件があります。それは「人」「カネ」「モノ」です。別の側面からいえば、誰でも水を汲み出せるような共同井戸のようなものが必要だということで、環境整備をするための政府の役割というものがあります。または各企業がどういうことをやるべきかという課題もあります。これには二つの側面があると思いますが、ヒト・モノ・カネについて述べさせていただきます。
 まず「ヒト」ですが、第二の創業というのは、いままで山で猟師をしていた人が海で
漁師を始めるようなものです。猟師を海へ連れていって漁をやらせても、命を落とすか
船を失うだけでしょう。漁をやるには、漁師という人材が必要なのです。

 そこで、とくに技術者が円滑に労働移動できるような環境をつくる必要がある。これは、
人材の需要と供給をどうマッチングさせるかということです。

 一昨年、私は行政改革委員会規制緩和委員会のメンバーとして、労働省とこの問題につい
て取り組みました。労働省は最初、人材紹介は絶対に民間には任せられないと頑強に抵抗して
いたのですが、一昨年から原則自由化されました。現在では何千という紹介業が民間に生まれて
います。これは前進ですが、まだ陰で労働省がさまざまな妨害をしており、それをなくすことがこれからの課題です。
 次に「カネ」ですが、第二の創業は野球にたとえると、一塁から二塁に盗塁をかけるようなものです。
ランナーは一塁ベースに足をかけておれば安全です。ところが、在来型の仕事にどっぷりと浸かって
おれば危険はないけれど、二塁には進めない。第二の創業に挑戦するためには、一塁を見切り、
命運を賭けて二塁に滑り込まざるをえない。ここは経営者の決断です。
 そのときに飛んでくるのは、キャッチャーの送球です。キャッチャーの送球でタッチアウトとは、
財務体質の息切れです。ずばりいえば、二塁に到達するのが早いか、キャッチャーの送球が
早いかは、第二の創業に成功して健全な経営として回りだすのが早いか、財務体質が息切れ
して債務超過に転落することになるのかが勝負の分かれ道でしょう。
 だから、第二の創業はなるべく早くやるべきなのです。一つの事業の立ち上げは、「桃栗3年、
柿8年」といわれるように、種を蒔いて、明日実がなるようなことはありえません。したがって、
皆さんがいまもっておられる本業がまだ足腰の強いうちに、ぜひ第二の創業を自分の次の世代の
ために挑戦すべきです。
 そこで必要なのは、長期低利の安定資金です。ここでお勧めしたいのは、先般、貸し渋りに対して、
政府が中小企業向けに中小企業金融安定化特別保証制度の拡充をしたため、5000万円ぐらいは、
どこの銀行に駆け込んでも、いまでは担保を要求しないで貸してくれるわけですから、すでに10万件を
超える中小企業が殺到しているようです。
 この前も秋田県の地銀さんが「この信用保証制度は、100年か200年に一度の大変有利な制度だから、
皆さんぜひお借りください」という広告を出しました。私も同感だと思います。この保証制度の推進は官が
考えだしたのではありません。窓口は通産省ですが、民間と政治が手を束ねて実現したんです。
ぜひこれを利用していただきたい。いま資金繰りに困っておられなくても、そのお金を使って第二の
創業に挑戦する、研究開発をやる。いまその手を打つべきであろうと思います。
 最後に「モノ」です。第二の創業にとっての「モノ」とは、まさに新しい事業商品を立ち上げるキー
テクノロジーです。大企業は情報力があり、人材がありと何でも揃ってますから自力でキーテクノロジー
を開発できますが、中小企業はこれらがほとんど揃っていない。しかし製造業に関していえば、事業は
人の後追いではダメ。どうしても新しい独創的なキーテクノロジーが必要です。二番煎じ、三番煎じの
ものをやっても、とても成功しない。
 そこでお勧めしたいのは、先の国会で、「大学等技術移転促進法」が通りました。いま国立大学や
私立大学、あるいは国立研究機関の研究者は24万人ぐらいいます。この人たちの手元に推定100万を
超える研究開発の種があるはずです。これを民間産業界に、それも中小企業に伝達しようということで、
この法律が通ったわけです。
 実際にこれらの種を産業界にトランスファーしていくためには、いろんな環境整備が必要になります。
至急やらねばならぬことは、大学の研究者たちの100万近くある膨大な研究シーズを、学者の視点ではなく、
産業人の視点から審査・評価・分析する人材の育成です。たとえば、大企業のエンジニアがリストラや
定年で余ってきています。そういった能力ある人たちを有効に使うべきです。
 政府は、いわゆるTLO(テクノロジー・ライセンシング・オーガニゼーション)といって、一つの大学に
数十社の中小企業がついて、技術をそこへうまくトランスファーすることを試みています。実は私も、
某大学と中小企業数十社とで、そのような産学共同の仕事を5年間したのですが、ついに一つも
結実しなかった。そこでの反省は、適正規模が必要だということです。花にたとえれば、メシベが
受粉して実を結ぶためには、オシベの花粉が何千、何万と飛ぶんですよね。この技術の世界と
いうのは、行き違いになるのです。したがって、これを一定の規模にもっていくことが必要だと、
私は考えています。
 本来は牛尾さんがやるべきものだったのですが、国際科学振興財団の4代目会長を押しつけ
られました(笑)。この財団で大学の技術シーズを収集し、産業技術化の観点から選別し、大学の
研究者と企業のあいだの権利関係を調整する役割を担うことで、大きな意味でのTLOをつくり、
トランスファーを進めていきたいと思います。下手に企業と大学が直に結びつくと、汚職の温床に
なりかねません。そのあいだに公的団体である財団が入れば、そういうことが避けられるので、
財界のご支援を受けながら、 これをぜひやりたいとひそかに決意している次第です。
 TLOの問題点は、大学からシーズをもってきて、企業がある程度成功させ、ロイヤリティーが
学者の懐に戻るまでに7〜8年はかかります。その間の人件費を何で賄うかということです。
概算すると、小さなTLOでも3年で3億円ぐらいの累積赤字が溜まりますから。
 現在、わが国産業界の99%は中堅・中小企業です。これがよくならないかぎり、産業界に明日は
ないといっても過言ではありません。かつてアメリカがアポロ計画の際に、ありとあらゆる不要不急の
予算を叩き切ってNASAに予算をつぎ込んだように、日本版のアポロ計画をつくって産業界に
財政資金をつぎ込むべきだと、政府に強力に働きかけていきたいと思っています。
 最後に、第二の創業に挑戦する際に、個々の企業家が注意すべきポイントを二、三申しあげたい
と思います。まず、どの企業にも「この分野の技術はどこにも負けない」「この営業に関してはもの
すごい人脈がある」といった長年積み重ねてきたスキルがあります。そのスキルのなかで、
自分の会社の中核を形成しているのが、いわゆる「コア・コンピタンス(戦略的経営資源)」です。
そのコア・コンピタンスに軸足を置き、いままでは右のウイングで仕事をしていたのを、今度は
左のウイングに手を出して仕事をすればいいと思うんですね。 えてして新しい仕事をするとき、
非常にいい話がくるんですね。それに欲と二人連れで飛びついたら最後です。自分が何のノウハウも
もっておらず、経験もない未知の世界に手を出すと、非常に危険である。したがって、自社のコア・
コンピタンスをしっかりと踏まえて、そのうえで右に出した足を今度は左に出すということをおやりに
なったらどうかと思います。
 いまの経営者に求められているのは「アントレプレナーシップ」だと思います。アントレプレナーシップは
起業家精神と訳されますが、これは多数に付和雷同せず、独自の見識と勇気で新しいものに挑戦する
心構えを指していると私は理解しております。そういう人は、「あいつは変わり者だ」「アホなことを馬鹿の
一つ覚えでよくも懲りずにやってるな」と周りに批判されても、目をつぶってわが道を行くという強靱な意志の
持ち主です。それがアントレプレナーシップであって、これから新しい仕事を起こす若いベンチャーの経営者も、
それから在来の企業の経営者も、もう一度、創業に向かって挑戦するという勇気を持ってほしいと思うんです。
 かつて湯川秀樹博士は「真理は常に少数派の側にある」とおっしゃいました。湯川さんが中間子理論の
理論方式を発表されてから実際にノーベル賞をもらわれるまでに30年の歳月がかかっているんです。
その間、あの方はずっと耐えられた。私も息子たちにいっているんですが、戦後の創業のころから見れば、
いまの不況なんてまだまだまだまだ甘い、余裕がある、と。あの焼け野原の中からわれわれの先輩方は
立ち上がってきたわけです。いま日本にある何百万社の経営者たちが再び創業者の精神に立ち戻って、
第二の創業に挑戦しないと、日本の21世紀の産業の興隆はないと思います。

 松下幸之助さんの自伝を読みますと、道端の水道の蛇口で水を飲んでいる人を見て、「よし。電機製品を
水道の水のように無尽蔵に供給してやろう」という思いで事業に取り組まれたと書いてありますが、
全く同感です。そのような思いで経営者たちが勇気を奮い起こして挑戦すれば、私は必ずや日本に
再び日が昇るであろうと確信しております。ただし、最後に一言。政治がこれ以上誤らないことが前提で
ございます。どうもご静聴ありがとうございました。 

加藤寛  どうもありがとうございました。
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加藤寛氏と対談:中西真彦氏 (1998年11月13日15:15 )
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中西真彦: 
所得税に関しては、課税最低限の490 万円以下の人はほとんど税金を払わない。
そんな人が国民の半分いるわけですから、ひどいもんです。 これはやはり「ナショナル・
ミニマム」の発想で、あまりにも「弱者救済」の理論を先行させすぎたために、国家が破綻
しかけているのです。医療費もそうで、先日、病院に行ったら、見渡す限り老人です。
「今日は誰々ちゃんがみえないけど、どこか体の具合でも悪いのかね」というひと口話があります(笑)。

 先ほど渡部先生は社会主義の悪い面を鋭く指摘されましたが、社会主義国家としての
日本のいい面は、国民皆保険で、どんな貧乏な人でも、どんな山奥のおじいさん、おばあさん
でも医者にかかれることです。アメリカでは3000万人を超える人が医者にかかれないのです、お金がないがゆえに。

 いずれにせよ、日本はあまねく平等な社会になりました。ところが、国家財政は破綻です。
そこをやはり変えなければ。

加藤寛
 そうなんです、だから地方財政が赤字だ、破産だといいますが、破産させたほうがいいんです。
一度破産させて、自分たちはこれからどうやって生きるかということを、地方の人たちも考えてほ
しいのです。何でも国からお金が入るのだと考えるのは、大間違いです。

中西真彦
 そのとおりです。群馬県の上野村では、1億円ちょっとしか収入がないのに、驚くなかれ、
人件費だけで3億円を超えています。しかも、村の予算は30億円を超えてるんです。
こんなバカな話はありません。われわれから取り上げた税金を、国は際限もなく地方にバラ撒いているということなのです。
加藤寛
 そんな例はたくさんあります。岐阜県のある地方自治体では、ダム建設にドカっとお金が出て
しまったので、お金の使い途に困ってお城をつくってしまった。歴史的な根拠なんてないんですよ、
そのお城には。「なぜつくったんですか」と聞いたら、観光客がくるのではないかと思ったそうなん
ですが、誰もこなかったのです(笑)。そんなことをやっていて、村おこしだ、町おこしだなんていって
も困ってしまいます。 さて、時間がなくなってきたので、第二の問題に入ります。先ほど中西さんが
新しい事業を始めなければならないとおっしゃいましたが、石井さんはどうですか。日本は新しい産業を興せますか。

石井威望
 先ほど牛尾さんが述べたように、魅力のある製品がないと全部不良在庫になってしまいます。
また供給力が過剰になり、需給ギャップが生まれたときに、どういう新しい市場ニーズがあるか
ということで評価が変わるため、「何をつくるか」というのが非常に重要になります。ですから一言
でモノづくりといっても、悪いものをたくさんつくれば、悪いほうへいってしまうわけですから、よりい
いものを、よりよい方法でつくる。

 では、どういうふうにつくるのか。HOWということもありますが、WHATとHOWを誰が本当にやるか。
今日のテーマの「日本の復興計画」というとき、誰かがやってくれるのではなくて、とくに技術の世界では
技術的な能力をもった人材をつくらなければなりません。これも先ほど数年かかるというご指摘がありま
したが、未来予測に従って、どんな新しい市場に向け、どういう人材をつくっていくかというような広い意味
での教育が必要です。

 日本の場合、古くは明治維新から、戦後オイルショック以後も、比較的うまくやってきたと思います。
黒船に驚いた幕末からほぼ数十年で、日本は造船ではトップレベルの輸出国に入るわけです。
また鉄道でも、1964年に誕生した新幹線で世界のトップに出る。自動車は遅れましたが、これも
現在ではトップに立っている。このように、私どもは歴史的にみて貴重な成功体験をもっている国民
だと思います。造船も鉄道も最初は外国に比べて出遅れたわけですが、それを巧みにキャッチアップし、
現在では世界をリードしているのです。

 このシンポジウムも、現在インターネットによって実況中継がされています。また英語で同時通訳も
しています。講師の中には外国人がいないのに、なぜ同時通訳をするのだろうと思われるかもしれま
せんが、インターネットで音声も伝え、世界中に流れているわけです。そういう意味では、この会議場は
すでにネットワークのなかで動いているわけです。昨日もフロアからの質問よりも、インターネットできた
質問のほうが多くありました。

 少し遡ってオイルショックのときを考えてみますと、あのとき実はものすごい技術革新が起こりました。
一言でいいますと、半導体と工作機械を結びつけたのです。世間ではロボットといってますが、
「メカトロニックス」といいます。そのときの大ヒットがビデオテープレコーダーで、一時は世界のほぼ
9割をつくっていました。これが日本の家電のドル箱になったわけです。このメカトロニックスによって、
日本は世界トップの工作機械生産国になり、それが現在も続いております。日本の資本財、生産財の
輸出が非常に大きいというのは唐津一さんあたりが盛んにおっしゃるところですが、そういうことが
1975年以後、IC革命と同時に起こったわけです。

 ところがプラザ合意後の85年あたりに一つの問題が起こります。このころからアメリカを中心に、
インターネットのパソコン時代に入るわけです。はじめは大したことありませんでしたが、現在はもは
やこれがなくては産業が動かない状況であるのはご存じのとおりです。ところが日本ではインターネット
教育の導入が遅れました。本腰を入れて導入しはじめたのは今年になってからです。

 したがって、この間に義務教育を受けた人はインターネットが全然できないわけです。とくに中小企業
の人たちは義務教育中心の素養しかもっていませんから、 中小企業の新しい労働力はインターネットが
まったく使えない。ところがアメリカは過半の人ができるわけです。アメリカは2000年になるとすべての
学校の教室にインターネットが導入されます。

 だから、義務教育を受ける12歳までに子供は全員インターネットの読み書きができる。そういう人たちが、
中小企業のすみずみにまで労働力として入れば、流通、サービス、モノづくりなどすべてがつながるわけです。
だから約10年以上遅れたわが国の義務教育を、いまから徹底的に見直す必要がある。

 このように、それだけの人材をつくっている国が、これから国際競争のライバルになるわけですから、
モノづくりと一言でいっても、なかなか厳しい環境条件に変わっているわけです。

 ただ、日本はまったくダメかというとそうでもありません。たとえば携帯電話、PHSは人口比率でアメリカの
2倍普及しております。だいたい4年で急速に伸びたのです。それがどの程度の経済的なスケールかといいますと、
NTTドコモが東京一部に上場しましたが、株価が420万円の値をつけたわけです。時価総額は約9兆円です。
現在、時価総額9兆円以上の会社はわが国で2社しかありません。トップがNTTで16兆円、次がトヨタ自動車で
11兆円。ですから、たかだか4年でトヨタ自動車に迫るぐらいの大企業が生まれたわけで、移動体通信について
日本は新しいタイプの可能性をもっております。

 若い人たちはほとんど全員携帯電話をもってます。携帯電話があるとどういうことが起こるのか。たとえば夏の
花火大会が開催されると、見物客のほとんどが携帯電話をもっているから、夜の原っぱが情報センターになる
わけです。それがいま現実に起こっているのであり、若者たちにとって、それが魅力であり楽しみであるわけです。

 いま、一番たくさん電話代を使っているのは女子中高生です。彼女たちにとっては、電話をかけておしゃべりする
ことが人生の目的なのです。

 皆さんの場合は、ビジネスをするために使っておられるわけです。おしゃべりばかりしていたら仕事になりません
から、せいぜい1カ月3000円も使っていれば大変使った部類に入ると思いますが、女性の場合は1万円ぐらい使っています。

 そういうところが新しい魅力のあるライフスタイルをつくりだしているのです。それは、ダウンサイジングで半導体を
はじめとするあらゆる小さな高性能のパーツがつくられたことによって可能になったことです。現在もさらに小さなもの
をつくるための研究開発をしている企業があります。

 いま、どのぐらい精密なものができるかというと、「ナノメーター」といいまして、だいたい1ミリの100万分の1の
長さの世界での製造・加工が行なわれています。そういうところまでいきますと、製品を限りなく小さくできる。

 先日も私どもの慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパスの学生で、携帯電話のユーザーたちを2〜3名、東大工学部
で最先端の工作機械の微細加工技術研究をしている研究室に連れていきました。東京から遠隔で、岡山の病院の
患者の1ミリぐらいの細い血管を縫うことができる実験を見せたわけです。

 その教授は、実は東大理学部の物理を出て、機械に学士入学しまして、二つの専門をもつダブル・メジャーです。

 こういう人の研究費はどこからきているのか。一番たくさんきているのは厚生省からです。「マイクロマシーン」と
いう微細なロボットで、将来の高齢化社会や医療へも使えるような技術を研究しているのです。 ではそういう
研究開発が中小企業でもできるか、ということになります。従来は温度が変わらない部屋が必要だった。このあいだ、
私が見学にいった研究室では恒温室をまたつくるというから、「どんな恒温室をつくるのか」と聞いたら、
温度が変えられるようになっているんです。非常に低い温度にも、非常に高い温度にも変えられるそうです。
そうしてそんな恒温室をつくるのかというと、超精密なハイテク加工が、中小企業で冷暖房がないようなところでも
使えるようにする実験をやっているということでした。これは成功しています。 わが国の超精密ハイテク加工は
すごく進んでいて、特殊なことに使うのではなく、中小企業にまで浸透していこうとしているのです。これが日本の
競争力であり、まだまだネタはいっぱいあります。

 ちょうど私が若いときに教えた人たちが、いま長老教授になっていて、その下の若手をみていると、そういう面白くて
魅力のある研究テーマに取り組んでいます。商品として、ユーザーに対する魅力がなければいけないのですが、
開発する魅力も必要です。そういう部分は、私はデータではなく現場へ行ってみていますので、その点は皆さんにも
ご安心いただいていいんじゃないかと思います。

加藤寛
 ありがとうございました。うかがっていると、本当にすごいと思うのですが、石井さんのおられる慶応の
藤沢キャンパスでは、「コンソーシアム」ってやっていますよね。コンソーシアムというのは、各先生が、
自分の研究していることを学生と一緒になって、1週間ぐらい使いまして、外部の人に紹介するんです。
そこへ企業の人たちがきて、「これなら一緒にできる」となると、会費を出して共同研究をしていくんです。
分の会社内にだけとらわれないで、なるべくそういった大学などにどんどん顔を出して入り込んでいくと、
どんどん技術が出てくるんです。そういう技術開発が重要だなと思うんですが。

石井威望
 わが国の大学は閉鎖的で、オープンにできないんじゃないかというご心配があろうかと思いますが、
歴史的にはそうではありません。ある時期に少しおかしくなってしまったことがあるかもしれませんが、
いわゆるユニバーシティで工学部、ファカルティ・オブ・エンジニアリングがあるのは、明治の初年に
日本がつくった帝国大学が世界で初めてだったんです。だからマサチューセッツ工科大学といって
いますけれど、あれはマサチューセッツ・インスティテュード・オブ・テクノロジーで、ユニバーシティでは
ありません。あるいはアーヘン工科大学というのもテヒニシ・ホホシューレであり、ユニバーシティでは
ないわけです。だからユニバーシティのなかで、工学部をつくるというのは、ヨーロッパのエンジニアに
とっては夢だったんです。それが日本で実現した。

 人材育成の面でいいますと、「象牙の塔」の方向に向かってしまうような悪いところがあったかもしれ
ませんが、いまは原点に帰り、とくに産学の問題を本腰を入れてやろうとしています。

中西真彦
 先ほども少し触れたましたが、大学や国立研究所にある膨大な数の研究シーズのなかには、すばらしい
新製品のネタになるキーテクノロジーがごまんとあると思うんです。これをどう産業界にもってくるかという
機運が、いま盛り上がっています。関西でいいますと、立命館大学や京都大学。関東ですと、たとえば
東大はどういうことをやったかというと、これがおもしろいんです。一長一短あるんですけど、会員企業を
募集した。ただし30社に限っています。そして1社当たり年会費を500万円取って、東大の持てる工学
技術のパテントをあげる。これで事業を立ち上げなさい。で、事業で成功したら、そのロイヤリティは学者の
懐に入るようにする。いままでは個人に入らなかったが、これを入るようにする。そうすると学者先生も一生懸命になります。

 だから皆さんも遠慮せずに、そういうようなところへどんどん声をかけて、会費を500万円ぐらいは吐き出す
覚悟をもって、これは自分の息子のためにあえて先行投資をするというぐらいのつもりで、おやりになってはどうでしょうか。

加藤寛
 大学はとにかくお金さえもってきてくれば、いくらでも受け入れます。

牛尾治朗
 質問があるんですが。たしかに、大学がすごく熱心になってきました。旧帝国大学のみならず、
地方大学もそうです。積極的な学者先生に会うと、いろいろな提案をしてくるのですが、ただ、
名古屋大学医学部の事件をみていると、どこまでが悪くて、どこまでがいいのかが、実はわからないわけです。
中西真彦
 それには、二つの問題があると思います。アメリカの産業が復興したのも、産学交流があったからこそであり、
これが世界の流れです。その点、日本の検察は遅れていると思います。牛尾さんがおっしゃるように、
贈賄や収賄には微妙な線があると思うんです。企業と学者先生が直に結びつくと、いろいろな問題が起きるでしょう。
だからこそ、両者のあいだに財団やTLOが入って援助したりする必要があるのです。

加藤寛
 以前、石井さんのお話でびっくりしたのは、臨教審(臨時教育審議会)がインターネット教育を拒否したということです。
石井威望
 インターネットはまだありませんでしたが、情報化をどう進めるかについては、理工系の専門委員は私と公文俊平先生
だけで、ほかの方はあまり関心がありませんでした。やはり悪影響もあるので、小学校教育のカリキュラムには入れない
でおこうという話になりました。ただ、いまになってみると、遅れたことで悪かったかといえば、そうでもない点があるのです。
アメリカではずいぶん普及しましたが、あのころ入れたパソコンやシステムは古いもので、これから日本が入れるのは
いちばん新しいものなので、コスト・パフォーマンスも非常に高く、後発のメリットもあることはあるのです。

牛尾治朗
 僕はいま音声入力を使っているのですが、すごいですね。原稿用紙に書く時間の10分の1で書けます。問題は、
うまく字が出るかどうかです。突然、脇をオートバイが走ると、その音が入るのです。どんな文字で出るかと思ったら、
「戦車がきた」と出るのです。思いがけない言葉が出てきてびっくりしましたが、すごい機械が出てきていますね。

石井威望
 ちょっと数字を申しあげますと、今年の夏までは音声入力のスピードはキーボード入力より遅かったのです。
ところがパソコンの進化のスピードは異常に速く、先生がおっしゃっている、たぶんIBMの『ビアボイス98』
といういちばん新しいソフトを入れると、キーボード入力のエキスパートの2倍ぐらいのスピードで入ります。

 キーボード・アレルギーがハードルだと思っていたのが、それを飛び越していけるというのは決定的です。
中国はご承知のようにカナがありませんので、全部音声入力でいく以外に方法がありません。ですから
音声入力は、アジアにとって最大の文化的ショックなのです。実はいま、IBMの『ビアボイス98』が
いちばん売れているのは中国なんです。

加藤寛
 そうですか。そういう話を聞くと、希望が出てて、楽しくなります。ここで休憩いたします。その間に
疑問がありましたら、ぜひご質問を出していただきたいと思います。
(今回もコーヒーブレークの間、会場の参加者にインタビューをし、コメントを寄せていただきました。
その一部をご紹介いたします。)

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 テレビ討論に比べ発言が素直に出ていて面白い。民間がどう動くかが問われている時代に、
(「京都シンポジウム」が)提言にとどまらず、具体的政治政策を仕掛けていくシンポジウムに
なっていくことを期待する。(男性、リゾート開発会社、36歳)
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 渡部昇一先生からは、具体的視点、直接的意見が聞けてわかりやすかった。
テレビ討論よりも、突っ込んだ発言があるこのシンポジウムをインターネットで中継する意義は大きい。(女性、会社員、30歳)
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加藤寛 (1998年11月13日 16:38 UPDATED)

 日本のいまの問題は、官僚が邪魔をして起こっていることが多いと思うんです。
中西さんのお話にもありましたが、私もハブ空港建設を促進すべきだと思っていますが、
問題は、空港は海のそばですから湾岸は建設省の管轄ではなく運輸省の管轄だということで
スムーズに進まなかったりする。所轄官庁が縄張りを主張する。そういう古い考え方の官庁を
旧官庁(九官鳥)というんです。まず縦割り行政を直さなければ、日本は本当の改革ができない
のではないか。その意味で、規制撤廃を主張される牛尾さんのご意見には本当に賛成です。
 斎藤さんは改革と景気回復の両立は難しいとおっしゃったような気がしますが、しかし私は、
ここまで追い詰められたら両方とも一緒にやらなければならないのではないでしょうか。
というわけで、斎藤さんに対するご質問からです。
「いわゆる銀行の貸し渋りについて正確な報道が少ないのが残念です。貸し渋りは主として都銀、
長信銀など海外業務を営む銀行が8%のBIS基準をクリアするために行なっているもので、地銀を
はじめとする地域金融機関は貸出資金が余剰気味の銀行が多く、貸し渋りしていないこと、
利益償還(借入金の返済)が困難な企業の借入要請に応じないのは貸し渋りではないこと、
など正確に報道してほしいと思います。資金の需給関係からみると、余剰であるために現在のような
超低金利が続いているといえます。余剰資金を中小企業発展に利用するシステムがないところに
問題があるのではないか。資金循環の閉塞性が問題だ」というご意見でございます。

斎藤精一郎  景気と構造改革が両睨みだということですが、これは僕が使う表現でいうと、
要するに過去の問題をすっきりと解決していない、あるいはゆっくり解決しようとしているから、
景気がなかなかよくならない。
 たとえていえば、後門の狼なんですね。後ろから狼に食いつかれているけれど、前門に虎がいる。
しかし、前門の虎ばかりをみていると、後ろから狼に食いつかれている。だから、まず後門の狼を早く、
2年なら2年のうちに、たたき切る。そして、できるだけ早く、前門の狼に向かう。その意味で、最初の
2年間のうちに、後門の狼をぶったぎる政策をきちんと出して、前門の虎である構造改革に早く取り組め
というのが第1点です。
 2番目は、貸し渋りは定義がはっきりしてないんです。英語でいうと「クレジット・クランチ「なんですが。
経営がおかしくなって返済できなくなった企業に資金を貸さないのは、銀行としては当然なんです。
それを他に言葉がないんで貸し渋りと全部いってしまっているんです。いわゆる信用収縮が起こっていることは確実です。
 それから地銀の問題でいくと、これも誤解されているんですけれども、拓銀がつぶれたから北海道の
企業は困っているのではないかというんですが、北海道の信金も含めた金融機関では貸出は増えているんです。
確かにどうしようもない不動産屋などはずいぶん切られているわけですが、拓銀がつぶれても、北海道
全体でみると、貸出額が増えている。そういう面では、貸し渋りは起こってないんです。拓銀がつぶれた
から貸し渋りで大変だというのは、ためにする議論で、一種の銀行救済派の人の議論だと思います。
その意味で、銀行が審査して貸せないところには貸さないのは本来正常なことであり、むしろ、
貸してはいけないとこに貸すのはやめてもらいたいわけです。つまり、いい貸し渋りというのもある
べきなんです。 これは大蔵省の金融行政の決定的失敗だったんですが、信用度は弱いが、
高い金利を出せば資金が調達できるような別のルートをつくっておかなかった。信用力がないから、
金利が高くなるかもしれませんが、町金融の金利に比べればずっと安いという資本市場です。
たとえば商工ファンド、日栄といった中小企業向けの金融が非常に伸びていますよね。
そうした企業がもっと増えるか、あるいは資本市場をつくるかたちになれば、いわゆる悪い貸
し渋りはずいぶん解消されるのではないかという気がいたします。

中西真彦  いま都銀が資金の引き上げを非常に厳しくやっている。貸し渋りも厳しい。
けれど、地域に密着した地銀、第二地銀、信金などは、意外にこれをやってないのは
おっしゃる通りです。 BIS基準が4%ですから、そのへんはクリアしやすいということで、
会社資産を無理に圧縮する必要はないということもあるんでしょうが。今度できた信用保証枠
の拡大を大いに使えば、中小企業の人はプラスになるわけで、5,000 万円までは粉飾決算でも
していないかぎりホイホイ貸してくれるわけです。ホイホイというとおかしいですが、政府が保証
するわけですから。中小企業を保証するのではなく、中小企業に貸し渋りなり引き揚げしよう
としている信金や地銀といった金融機関を保証するのです。金融機関をもって「これは100 年か
200 年に一度の制度だ」といわしめるような制度ですから、大いにこれを使っていただければと
思います。 ただ、私の調べたかぎり、昨年の4月から今年の3月までの1年間に、まぎれもなく
10兆円のお金を引き揚げています。クレジット・クランチです。そのうち90%は、中堅中小企業から
です。ですから、資金繰りが苦しくなるのは当然です。さっき申しあげたように、海外でドルの調達が
できずに逆に円をどんどん海外に送っています。だからいま日銀が危機感を抱いているのは、
これがなお進むと、再びすごい信用収縮が起こるのではないかということです。

加藤寛  牛尾さん、いかがですか。

牛尾治朗 企業のほうにも責任があって、大企業の場合は通常、自分のグループ会社を守るため
に3倍〜5倍ぐらいの資金をもっているのです。それでお金の加熱需要が起こることが問題なのです。

加藤寛  それでは次の問題に移らせていただきます。中西先生と牛尾先生にお答えいただきたい
ということで、「減税は大賛成。その前提である小さな政府をつくるのは誰か。政治家には期待
できません。それが保証できないと、減税は無責任にならないか」ということです。

中西真彦  適切なご質問ですが、難しいといえば難しい問題です。結論を先にいえば、
私は国民だと思います。繰り返しますが、私の提案は、所得税も法人税も30%まで下げろと
いうことですが、すでに小渕内閣が選挙で約束していることがあります。法人税を46.36 %から
40%に、所得税を65%から50%に下げるということで、11月の臨時国会でやる予定でした。
ところが先送りされました。要するに、財源をいったいどこに求めるかということなのです。
いくら下げても、財源手当が制度として位置づけられないと通りませんから。そこで大蔵省は、
自治省に「地方法人税の15%を下げろ」というのです。結局、それぞれに族議員がついていますから、
膠着状態に陥ってしまい、先送りされたのです。
 こうなってくると、ものの順序としては、最終的には政治のリーダーが「えいや」で決断する
以外にありません。橋本前総理は、郵貯の民営化の際に、「ビッグバンで巨大な国営銀行が
残っていいわけがない」という考えでした。誰が考えても、郵貯は東京三菱銀行を4つも5つも
合わせたような巨大な資金量をもつ国営銀行ですから、残しておくのは時代にそぐわない。 
ところが、せっかく行政改革推進本部が中間報告で「郵貯を民営化しろ」と提言し、われわれも
拍手喝采したのですが、族議員が猛然と巻き返したのです。その背後には、地元の名士である
全国各地の郵便局長がいました。これは内実の話で裏はとれていますが、各代議士を呼びつけて
つるし上げたらしいですね。だから、郵政相、全逓、自治労、族議員が一体となって、橋本龍太郎総理を
揺さぶったのです。それで橋本さんが腰砕けになって、中間報告よりもはるかに後退し、5年後に
国鉄のような公社化にするという、実に寝ぼけた結果になったのです。 あのとき、橋本総理にリーダ
ーシップがあるならば、「俺のクビをとってから前へ進め」というべきだったのです。そうすれば、
あの人は歴史に名の残る総理になったでしょう。ところが腰砕けになって公社化に後戻りしたのです。
だから、それと同じことが今度の減税にもあります。いまのご質問に対しては小渕総理が「エイヤッ」の
決断ができるかどうかにかかっていると思います。決断をするのは総理大臣で、どういう総理を選ぶかは
まさに国民の責任ではないでしょうか。派閥均衡で総理が出てくるという日本の政治の仕組みは、
国民の政治意識がもう少し上がらないと変えられないと思います。

加藤寛  牛尾さんはどう思いますか。

牛尾治朗  中西さんのおっしゃるとおりだと思います。ただ、当面の進め方で、法人減税が40%、
最高税率が50%、あと定額で15%下げるという程度の減税では、直間比率の税制で解決しない
ほうがいいと思うのです。 それから、小さな政府をつくろうというとき、今日も議論が出たように、
中央、地方ともに小さくすることから考えれば、7兆円なんて簡単に捻出できる話です。これは大いに
やるべきです。 もう一つ、民主党は税に関しては、「われわれはタックスペイヤーの代表の政党です、
自民党はタックスイーターの政党です」と主張しています。しかしタックスペイヤーの政党であれば、
当然小さな政府を考えなければだめです。自由党は「小さな政府の本家本元は自分だ」といっている。
われわれは減税をしたうえで小さな政府を望んでいるんだという問題提起を、皆さんや知識人やマスコミが
声を大にしていえば、少なくとも民主党や自民党は、いま中西さんのいった方向に進まざるをえない。
現在の政局がプラスに働くようにしたたかに演出していけば、流れは十分できるのではないでしょうか。
 その意味では3300の市町村と47都道府県のなかで、たとえば宮城県とか高知県などは、いまのままで
地方税を減税してもやっていけるという体制に入りつつあるわけですから、そういうことをクローズアップする
ことです。地方ができるのに、中央ができないのはおかしいじゃないかということを、われわれは懸命に訴えて
いく必要があるでしょう。消費税の問題は、これから増えるであろう福祉や年金の問題に対応する話であり、
現在の減税は小さな政府を実現することでできるんだという理論で踏ん張ってもらえれば、相当ちがうのではないでしょうか。

加藤寛  しかし、たとえばいま商品券に対する反対が多いでしょう。にもかかわらず実施しようとしていますが、どうすれば止められるでしょう。

牛尾治朗  地方自治体が勝手にやることは一つのアイデアだと思います。しかし、中央でやることではない。
ただ、あれは公明党と自民党という私党同士が政党間で合意しただけで、まだ政府決定になっていません。
いよいよ公になるときには、もっと本格的に反対しないといけないでしょう。公の決定になるまではものすごい
距離があるわけです。減税でも政党同士で話し合ったことが公になるまでに6カ月ぐらいかかるので、ちょっと
待てと誰がいうかということでしょうね。

加藤寛  もらった人が破って捨てればいいんです。 

中西真彦  やっぱりここで日本の民主主義のレベルが試されるんでしょうね。

加藤寛  渡部さんに質問です。「社会主義的な考え方が日本で広がっていることは認められるけれども、
それをなくそうとすれば正義の立場から批判されるのではないか」というものです。どうですか。

渡部昇一  ハイエクもいっていますように、社会主義政策と社会政策は違うんです。社会主義政策
というのは私有財産をなるべくなくして政策を進める。だから税金は取れば取るほどいい。私有財産は
ないほうがいい。ところが社会政策のほうは、豊かな社会が貧しい人を救うという意味です。つまり
貧しい人のために、サーカスでいうセイフティ・ネットを提供する。飢えず、凍えず、雨露当たらず。
医療はヤブ医者でもいいから痛み止めぐらいの注射をしてくれる治療。これ以上は政府に望むべきでないとはっきりいえばいいんです。 

中西真彦  いまの質問は先ほどの基調講演で私が触れたことなので付け加えさせてください。
私は、日本は左足が前に出すぎているから思い切って右足を前に出せと申し上げました。
右足を踏み出すということは、自由競争と自己責任の原則を思い切って踏み出すということです。
 ところが、自由競争と自己責任ですべて事がすむわけではない。自由競争のあるところには
弱者と強者、敗者と勝者が必ずできる。そして強者はますます強者になり、弱者はますます弱者に
なっていく。弱肉強食の社会ができるわけです。いまのアメリカがそうですね。ところが、たとえば
イギリスはサッチャーが15年前に思い切って右足を前に出して、自己責任と競争の原則にしましたが、
いまどうなっているかというと、再び左足を前に出そうとしている。ブレアの労働党政権を出さざるをえない。
自由競争をすると必ずその弊害が出るのであり、社会が二極乖離すれば社会不安になるのは当然の
ことなのです。 だから、いまの日本は右足が前に出ているのか、左足が前に出ているのか、
どっちなのかということです。イギリスやアメリカと比べて、日本は一周遅れたと私は思うんです。
彼らは左足を再び前に出さなければいけない。日本はまだ右足が前に出ていない。
 平等の理念は社会正義として決して否定するものではない。「貧しきを憂うのではなくして
等しからざるを憂う」ということは孔子の時代からいわれていることです。ギリシアの哲学者も
みなそれをいっています。何千年の人類の歴史のなかで、平等の理念は不滅の理念のひとつ
なのです。ただ問題は日本は平等が行きすぎていることです。

牛尾治朗  僕も賛成です。日本は1周、いや3周ぐらい遅れていると思うんです。民主主義と
いうのは必ず民主主義と市場経済はワンセットなのです。やはり21世紀には三つの「自」が
大事です。すべての国民、とくに経営者は自主判断できなければならない。また、自己責任を
きちんともつこと、さらに自助努力をすること。この三つがなければ、経営者としてやっていけないし、
政治家に1票を投じるときにも、この三つが大原則なのです。ですから、自主判断もなければ、
自己責任ももたない、挙げ句の果てに自助努力もせずに、「棚からボタ餅」を待っている人には責任をもちようがありません。

加藤寛  でも牛尾さんね、経営者はまだいいんです。人事権も財政権もあるでしょう。学者には
人事権もなければ財政権もないんです。学長がもっているのは見識だけなんです(笑)。まさに
学者は徒手空拳ですから、経営者はあまり贅沢をいってはいけません。

渡部昇一  自由平等はギリシアの昔から求められてきたのですが、結局、お釈迦さまもキリストも、
この世で平等を求めてはいけないといっています。そもそも、人間は平等ではないのですから。
生まれたときから、男と女ですよ。美人か美人でないかでものすごく差がつきます。同じ程度の
頭でも美人なら、テレビキャスターでニュースでも読めば、何千万円もの契約金が入るんですよ。
これを「けしからん」といってはダメなのです。だから社会政策も、ここからズレてはダメです。
飢えず、凍えず、雨露かからず、病気になればヤブ医者にかかる(笑)。これ以上求めてはダメです。

石井威望  ヤブ医者、ヤブ医者って何回も出てきますが(笑)、医療の世界では昔から
「医は仁術なり」といわれました。医者の良心というか、ヒポクラテスの誓いというものがありまして、
これは洋の東西を問いません。かつて、武見太郎さんが盛んに自由診療にこだわりましたが、
当時は「医者が自由診療で儲けるためにいってる」との悪い印象がありました。たしかに、
職業的倫理が保険でギャランティーされると、医者がそこから解放されるという意味では
気楽かもしれませんが、医者は一種の社会貢献として貧しい人を救うんだという「赤ひげ精神」
みたいなものが衰弱する危険性があります。 ですから、ソ連の医療はとても貧困になりました。
全部ギャランティーするのが社会主義の建て前ですが、クォリティーはものすごく落ちてしまった。
その結果かどうか、ソ連の人の平均寿命が短くなりはじめたのです。
 それに、現在は薬をどれだけ処方したかが病院経営にとって重要になってきています。そうすると、
小児科なんて薬は何分の一かで済みますからね。小児科の経営がいちばん苦しくなってくる。
 だから、小児科はいまどんどん減っています。私の娘は2人とも医者なんですが、どちらも小児科です。
少子化時代を迎え子供は大切にしなければいけないといいながら、子供を大事にするシステムが
わが国にはなく、そういう世論も起こってこない。ここにいらっしゃっている皆さん方には、大いに声を上げていただきたい点です。

加藤寛  ところで最後の住宅問題で決着をつけていただきたいのですが。先ほど斎藤さんは、
現在のような状況で住宅減税をやっても効果はないという話でしたが、中西さんはいかがですか。

中西真彦  私は斎藤さんの視点はいかがなものかと思うところがあります。ここで景気を浮揚させない限り、
どんどん株価は下がり、経済は悪循環に入ってしまう。待ったなしで景気を浮揚させることは、
いまや政府も国民も、だいたいコンセンサスが取れていると思います。 どこを減税で刺激すればいいか
というと、一番生産誘発効果のある市場を刺激すべきでしょう。それが土地を含めた住宅市場なのです。
そこに政策減税を打ち込めということを申し上げているのです。家は、当然土地とつながっており、
土地には土地基本法というのがあります。土地基本法は日本がバブルのときに高騰した地価を抑える
ためにできたもので、土地取引に対して課税するものです。それに譲渡益課税がかかってくる。
これを一時的に全部凍結するべきです。同時に上屋の住宅に対しては、アメリカのように住宅ローンの
利子を全期間にわたって所得から控除すべきです。この2つをセットでやれば地価は上がります。
 土地の値段が上がってからやるべきだと斎藤さんはおっしゃいましたけれど、土地は放っておいて
上がるものではない。経済の大きな流れのなかで、やがては資産デフレにも歯止めがかかるで
しょうが、いつになることやらわかりません。これから2〜3年も資産デフレで地価が下がっていったら、もっと大変なことになります。

加藤寛  斎藤さん、いかがですか。

斎藤精一郎  たとえば90年代に住宅金融公庫の金利が下がって、家賃を払うよりもローンを
借りて買ったほうがいいという一次取得者が、東京や大阪のマンションを買ったわけです。
そういう人たちが1000万円以上損していることをどう説明するのか。また、同じことが繰り返される。
 いまはっきりわかっているのは、金融機関に膨大な担保不動産が残っているということです。
銀行のトップに、「なぜ早く処分しないんですか」と聞くと、「いま処分したら、担保にしたときの
金額の2割ぐらいにしかならない」といいます。「そのうち地価が上がるんじゃないか」と。
ミクロ的にはそれでもいいんですが、ほとんどの銀行がそう判断するからたまってしまう。
2年間ぐらいでそれを吐かせないといけない。金融機関のために60兆円ものカネがあるわけですし、
足りなければもっと入れてもいい。整理してしまえば地価に底値感が出てくる。そうしてから、
中西さんがいったように、住宅減税を大々的にやって良質な住宅を供給すればいい。
順序が違うのではないか。
 いま住宅減税をやって、もし値段が下がったとき、中西さんはどう説明するんですか。
国は絶対にそういうことをしてはいけないんです。住都公団がいい例です。民間なら個人
責任ですけど、住都公団は公的な機関です。そういうところが国民に1000万円単位で
損をさせてしまった。非常にまずい政策ではないかと思うんですね。
 個人が安心感をもてるような政策が本筋です。減税をするのは賛成ですが、牛尾さんが
おっしゃるとおり、直間比率に安易な解決を求めてはいけない。「行革でこれだけ歳出を
減らすから、10兆円減税しましょう」といえば、国民は増税に跳ね返られないと思うから、
安心して消費する気になる。住宅減税は非常に危険ではないでしょうか。

牛尾治朗  斎藤さんのおっしゃる面はたしかにありますが、 いま住宅が需要回復の魅力的な
マーケットであることは事実です。土地をもっている人が安い建築費で家をつくれるようにする
ことは非常に大事だと思います。もう一つは、借家業を安全な仕事にするために借地借家法を
変えるべきです。自分の土地の上に、自分の家や借家をつくることを推進することです。
それはいま税調で出ている金利の問題とか租税特別措置でやるのも一つの方法ですが、
私はそれに重ねて、 

中西真彦  それに重ねて、来年4月から丸2年間、建築、住宅に関しては、時限立法的に消費税5%を
ゼロにするぐらいのことをやればいいと思うんです。去年の4月に、住宅の消費税が3%から5%に
上がるだけで30万戸もの駆け込み需要があったんです。2%で30万戸の駆け込みがあるわけです
から、借家借地法を変えれば、おそらく2年間で前半30万戸、後半70万戸ぐらいの促進効果があるのではないか。 

加藤寛  斎藤 若い人たちはもう賃貸派に移っています。持ち家意識というのは、
右肩上がりのときには、もてば必ず価値が上がったから買ったんです。ところが土地神話が
崩れ、合理的に考えれば絶対に賃貸のほうが得だと考えるようになっている。 

中西真彦  いま賃貸のほうが割高なんですよ。

斎藤精一郎  だからもっと賃貸は下がっていいんです。そのためには供給を増やせば
いいんですね。適正な値段の供給を促進するような住宅政策はいいと思いますね。

牛尾治朗  うちの城南地区のあたりは、土地をもっている人がどんどん家をつくって
貸してるんです。それはもう、すごい建築ブーム。散歩していると、どこに不況があるの
かっていう気がしますけれども。税制的に有利になれば、もっと進むんじゃないかと思います。 

中西真彦  アメリカは住宅ローンの利子を所得から控除するのを、持ち家2軒までいいということ
にしている。すると、最初の1軒は自分で住んで、もう1軒は貸すために建てようというインセンティブ
が動くんです。 この問題に関しては、最近、大蔵省や通産省の役人とずいぶん議論をしているんですが、
彼らが反対する最大の理由は、この制度が金持ち優遇だからだというんです。ところが、これは
おかしいのであって、日本の住宅産業に対する金融の半分近くは、住宅金融公庫から出ているんです。
民間の金ではなくて、官がやっている。住宅金融公庫や公団を使って、日本はせっせとウサギ小屋を
たくさんつくってきているんです。官僚も天下っているから、どんどんつくるわけです。要するに、
需要があろうがなかろうがつくるんです、はじめに仕事ありきで。 ウサギ小屋はごまんと余っている。
だからここで良質の、空間の広い家に買い替えようという意欲、インセンティブを与えるような税制を
やらなくてはいけない。 アメリカでは、どんどん買い替えられているんです。私の取引先は10年ぐらい
のあいだに家を3回ぐらい替えていますよ。行くたびにいい家を買っている。そういうインセンティブを
働かせるようにすべきなんです。 金持ち優遇だという制度といっても、このバイアスはいい意味での
バイアスであって、これをいまやらねばならない。それを、公平平等が大事だといって突っ張っていると、
物事は前へ進まない。だから、この問題に関しても右足を前に出すべきだと思うわけです。

石井威望  インターネットの家庭での普及は、日本はアメリカに比べると遅れています。
個人で情報インフラを整備するのは、東京都内でも難しいんですが、最近、ビルに初めから
インターネットを入れてしまうケースも出てきています。情報インフラは従来、住宅問題と別に
考えてきたのですが、一緒にやれば、SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)といった
新しいライフスタイルに合った住宅ができるのではないでしょうか。

加藤寛  住宅税制でいま問題になっているのが、住宅ローンを所得から控除するか、
住宅ローンの金利を安くするか、ということです。エコノミストたちは「所得控除でやれ。
アメリカもそうではないか」といっているのに対し、大蔵省には「アメリカの真似をすることは
ない。利子控除で十分じゃないか」という意見が多いようです。この点については、どのようにお考えですか。

牛尾治朗  二つ問題があります。日本人は、「金持ち優遇でなぜ悪い」といわずに、
急に何かしょんぼりとするのです。利子控除は小さな家だけが対象なので、それが適用
される小さな家、すなわち安い家をつくるわけです。だから、20〜30年経つとダメになって
しまう。 欧米社会では、都市計画が100 年通用する家をつくろうという方向に向かっていますし、
ましてやインテリジェンスなものにしようと思えば、非常に堅牢な建物をつくらなければなりません。
やはり現在の5〜10倍ぐらいの金額に対して優遇措置を講ずるように、課税の範囲を
拡大しなければなりません。そこまで建物が大きくなれば、所得制限も当然、変わってきます。
 所得控除と金利カットのどちらがプラスになるかといえば、甲乙つけがたいと思います。
僕はむしろ課税の範囲をもっと広め、みんなが最低40〜50坪の家にやはり100 年間、
孫の代まで使えるような家をつくる方向で考えていかなければダメだと思います。 
もう戦後は終わったのだから、やはり住宅政策についても、都市を形成し、多くの制限を
受け入れながら良質の家をつくる方向をきちんと打ち出すべきだと思います。

加藤寛  しかし、そういうことをやるのならば、いまの住宅促進税制のまま、面積を広くして
かまいません、所得制限もやりませんということにすれば、3000万円ぐらいであれば、
給与所得控除よりも得になります。

牛尾治朗  僕もそう思います。

加藤寛  だから必ずしも所得控除をやる必要はありません。

牛尾治朗  私は甲乙つけがたいといっているわけです。そっちのほうがいいとは思うのですが、
その思想もまた金持ち優遇だというふうにとられると困ります。あえていえば、金持ち優遇税制的
バイアスのかかる税制のほうがいいでしょう。あまりにも公平平等といってやってきた結果が
現在の状況ですから、今度は努力した者が報われるシステムにしないといけないわけです。 
一般の所得税も同様で、日本の累進税率は先ほど申し上げたように、年収490万円以下の
人は、ほとんど税金を払っていない。払っていなくてもこれだけ運営ができるというのは、
今日ここにおみえの中間所得者の方々にものすごい重圧がかかっていて、われわれは60%
ぐらいもっていかれているわけです。 相続税も、一生懸命努力した人が資産を成せるように
するべきです。そういうことをいうと「けしからん。相続税を安くするのは一部の金持ちに対する
優遇である」という批判が出る。では、誰も努力しなくなり、みんなウサギ小屋に住んで相続税を
払うほどの資産を形成しないほうがいいのかというと、渡部先生がおっしゃったように、私有財産を
否定するような社会主義的発想は、経済の活力をどんどん削いでいきます。経済の活力を削がない
ためには、金持ち優遇という批判を受けても、あえて努力した者が報われるという税制をしばらくの
間はやるべきだといいたいですね。これから15年ぐらいはやるべきです。 

加藤寛  たいへん勇ましいですが、しかし本当にそれでみんなが認めてくれるのかという点は……。

牛尾治朗  大丈夫です。

加藤寛  やはり総理大臣がそういう税制をやるんだといわなければ困ります。いまの日本の
総理というのは、無難な人が出てきてしまう。単に出てきただけで、自分は必ずしも解決する
意欲がない。 私だって、金持ち優遇でけっこうですよという答申を出したいのですが、認めてくれないじゃないですか。

渡部昇一  たじろぐ金持ちがよくない。俺はこれだけ税金を納めている、税金を納めないやつが
何を文句いうんだというだけの気迫がなければいけないのです。気迫がなくなったのは、
長いあいだマルクスのマインドコントロールが取れていないからです。マインドコントロールを
完全に取らなければいけません。そして優遇であろうがなかろうが、そもそも個人の財産に
国家が手を突っ込む権利などないんだということを世のなかに知らしめなければなりません。

牛尾治朗  住宅ローンの税制や相続税をゼロにしても、大した金額ではありません。相続税全
部で1兆円を切っているんです。この政策減税をやってもわずかなものです。いま加藤さんが
おっしゃったように、「それは難しい」といっても通らないということですが、産業界も悪いと思います。
なぜなら、産業界はサイレント・ピープルであり、サイレント・マジョリティなのです。それはどういうこと
かというと、いま農業に膨大な金がこの戦後20年、30年、どんどん出続けている。全国津々浦々に
農業予算がバラ蒔かれています。これは何兆円ものお金です。なぜこうなったかというと、
全国農協中央会という強力な団体があったから。民主主義というのは数の論理です。
数というのは大きい声を発信するということ。だからここへカネが流れたわけです。 
順番としては、今度はサイレントマジョリティであった産業界、あるいは経営者が声を発信する番
ではないでしょうか。全国で400万社ぐらいあるわけですから、いかに自民党といえども、
聞かざるを得なくなると思うんです。 この前、自民党本部で中小企業政策を考える議員連盟を
つくってくれといったんです。それがこの数カ月で、衆議院だけでも100人を超えました。
建設省出身の某代議士がこうつぶやいていました。「今度の参議院の惨敗はゼネコンや
建設関係の集票網がほとんど機能しなかったからだ。新しい集票マシンが必要である」。
ここで産業界が結集して、私たちの声を発信していけば、政治家をいい方向へ誘導できるのではないでしょうか。

加藤寛  ありがとうございました。今日は政府税調の総会がある日でしたが、ここにきて元気
づけられることが必要だと思って休会にしたんです。本当に今日はいろいろと元気づけられて
よかったです。金持ち優遇は当然だといいたいですが、それを本当にやってくれる政治家が
いるかどうか。小渕首相にはそう期待ができませんし、その次といわれているのが加藤紘一
さんか菅直人さんでしょう。そんなに期待できるわけじゃない。菅直人さんはエイズ問題は
やりましたが、あとの厚生省の悪い部分はすべてほったらかしてたんですから。だから、
加藤か菅なんていってないで、「加藤寛」といってくれれば一番いい(会場爆笑)。ずいぶん
勝手なことを申し上げました。本日はありがとうございました。 情報は順次更新されますので、
 文責:PHP研究所
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第132回国会 規制緩和に関する特別委員会
 第5号平成7年3月15日午前10時開議 出席委員
  委員長 塚田 延充君    亀井 善之君  橘 康太郎君
   理事 斉藤 鉄夫君  武山百合子君 理事 西川太一郎君 土肥 隆一君
   五十嵐ふみひこ君   安倍 晋三君   栗本慎一郎君 小杉  隆君 七条  明君
      御法川英文君  村田 吉隆君 太田 誠一君 岡田 克也君
      河合 正智君  西村 眞悟君 後藤  茂君 輿石  東君   松前  仰君  吉井 英勝君 
委員外の出席者 参考人(行政改革推進本部規制緩和検委員会専門委員)
       (消費科学連合会事務局長)伊藤康江君  (慶應義塾大学経済学部教授)島田晴雄君
       (株式会社ベンカン代表取締役社長)中西真彦君 (オリックス株式会社代表取締役社長)宮内義彦君
        (日本労働組合総連合会事務局長) 鷲尾悦也君   (行政改革委員会委員長代理) 竹中一雄君
         特別委員会第三調査室長 佐藤仁君
    ―――――――――――――
三月十五日 規制緩和の推進に関する陳情書外二件(広島市 中区基町一〇の五二広島県議会内檜山俊宏外二
 名)(第一六六号)は本委員会に参考送付された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件 規制緩和に関する件
塚田委員長 次に、中西参考人にお願いいたします。
中西参考人 中西でございます。
 時間が限られておるようでございますので、各論は後の質疑応答のところに回しまして、私はこの規制緩和というキーワードで言われております問題の特に総論、基本問題について、少し突っ込んで意見を申し述べたいと思います。
 まず規制緩和の必要性ですが、今我が国経済にとって最大にして喫緊の課題は、産業構造の大転換でございます。産業を根底から構造転換して活性化するためには、ぜひとも必要なことがこの規制緩和でございます。この公的規制の結果、新規参入を阻んだり、市場メカニズムや企業家精神が抑制されたり、あるいは内外価格差や非効率な部分が温存されておるというマイナス面が顕著にございますので、ぜひともこの公的な経済規制は緩和していくべきである、こう思っております。特に、我が国産業の最近の競争力の低下の大きな要因は、高騰した人件費や地価以外に、公共料金を初め各種規制によって社会全体が高コスト化していることでございまして、このままでは多分ASEAN諸国との競争にも敗れて、日本の生命線である貿易立国の存立すら危ぶまれるというふうに私は考えております。
 許認可などの政府規制は、九四年三月末において既に一万九百四十五件に上っておりまして、これは膨大な数字がかかっているわけです。今まで製造業に関しては若干規制の網が緩和されておるところもございますが、金融、通信、流通、運輸などのサービス業の分野においては、参入と価格の両面において、ありとあらゆる規制の網が現在張りめぐらされておりまして、これを合計しますと、日本のGDPの五〇・四%が現在規制されたセクターによるものとなっておるという調査が出ております。この数字は、我が国経済の規制の過剰性を明らかに物語っております。イタリアの某政治家が、日本は世界で社会主義国として成功した唯一の国だということを言ったということがありますが、一つの社会主義的な計画経済的なところに軸足が余りにもかかり過ぎておった結果ではなかろうか、こう思っております。
 そこで、緩和の必要性は以上のようなことでございますが、ただ、この規制緩和の問題を基本問題に掘り下げていきますと、非常に難しい問題がそこに介在しております。
 どういうことかといいますと、しばしば経済的規制は全廃すべきであるという声が聞かれますが、これは言うならば徹底的な自由競争の推進でありまして、そうなりますと社会生活の安定とか社会全体の調和という見地から、要するに自由競争というのは強者をますます強者として、弱者をますます弱者にするわけですから、勢いそこに貧富の格差ができまして敗者も生まれるわけでございまして、この辺が非常に難しいところではなかろうか。無制限に規制を緩和していっていいというわけには、経済の原則から見てもまいらぬのではないかという気がしております。
 したがって、当然この規制の緩和や撤廃を主張する声に対して、一方で社会的公正は一体どうなるのかという声が出てくるのは、そういうところからではなかろうかと思っております。経済的規制の中にも、むしろ市場において大企業と中小企業の間の、企業間の適正な競争関係を維持することによって、社会全体の利益や経済全体の活性化に寄与しているものもあるという声があるわけでございまして、これは例えば分野調整法などがそうでございます。
 これらの声を無視して徹底的な自由競争を促進すれば、これは当然過当競争をもたらして、共倒れや寡占状態を招来することになりまして、逆に品物やサービスの安定供給に支障を来すということも起こり得るわけでございまして、私はアメリカ流の、競争こそ善である、規制は悪であるという、いわゆるレッセフェール流の論理をそのまま日本に持ち込んで果たしていいかどうかということに対しては、若干そこは考えるべきだというふうに思っております。要するに、この問題の難しさは、自由競争による社会的弊害と、規制による経済的弊害のいずれをより重視すべきかという問題にあると思います。一方の弊害が若干でも大きくなってくると、すぐ一方から反対の声が起こる、こういうことになっておるのではなかろうかと思います。
 この問題を掘り下げていきますと、やはり根底には、難しくなりますが、哲学の領域に踏み込めば、結局は自由か平等かというこの二つの理念の対立に起因するんではなかろうかというふうに私は思っておりまして、自由だけを、自由競争をマグナカルタにしますと、アメリカのようなことになりまして、とことん競争の結果、弱者と強者の差がどんどん開くことになりますし、逆に平等だけをソ連のようにマグナカルタにしますと、これは経済競争が、経済の発展が阻害されまして、停滞しまして、国家がああいうようなことに、崩壊するようなところまで行ったわけでございまして、結局はこの辺をどういうふうに日本が、両理念の間をうまくバランスをとって政治なり行政を運営するかということにあると思いますし、そのことがこの規制緩和の問題、撤廃問題にも深くかかわっておると思います。
 この規制緩和の問題は、もう一つは、普通は生産者と消費者という視点から言われますが、商工会議所あたりは九〇%中小企業の団体でございま
して、弱い生産者、流通業者と、強い生産者、流通業者という視点でやはりとらえていく必要もあるやに思います。
 例えば、大店法なんかがクローズアップされている問題でございまして、これは私どもも原則はやはり規制緩和を絶対に推し進めていくべきであると思っております。一気にこれをやりますと、十階からいきなり一階に飛びおりるということになりますと、多くの中小業者を殺すことになりますから、この辺は激変緩和措置を講じながら徐々にソフトランディングさせていくというふうな意見を申し述べておるわけでございますが、我々は弱者であるとみずから決めつけて弱者支援を要請して、そしてその政府の支援だけで生き残ろうと、こういうことは私は許されないと思いまして、やはりそういう弱者もよく努力をしていただいて、自助努力をしていただいて、新たな道への展開を図るということで、この問題は、これは徐々に規制緩和を基本的には進めていくべきだ、私はこう思っております。
 問題は、やはり計画経済手法と市場経済、要するに悪魔の手か神の手かということで、どちらにゆだねるかということでございますが、私は、やはりこれは市場メカニズムにゆだねるべきであって、規制が余りにも、日本は自由主義経済というよりは規制過剰自由主義経済と言っていいほどの規制の網がかかっておりますから、ここもとはやはり思い切って規制緩和の推進をやるべきである、こう思っております。
 中小企業の中にも、進取の気性に富んだ中堅・中小企業は、もうどんどん規制も撤廃してくれ、自分は新しい分野にどんどん進んでいくという声もあるわけでございまして、現に電話機とかああいう携帯電話なんかは、撤廃、緩和された結果、物すごい勢いで中堅・中小企業が参入して、品物も豊富になるし、値段も下がるし、需要も倍増するという大変な効果が出ておるわけでございまして、これは何も電話機やこういう電信関係じゃなくて、いろんな分野でやはり参入できる分野があるわけですね。今問題になっております下水道分野でも、限られた大手がここもう十数年来きちっとカルテルを組んでやってきたわけです。あの辺もやはり参入をさせれば、非常に多くの中堅・中小企業が入っていって、仕事も活性化しますし、価格も下がるし、いろんないい点が私は出てくるのではないかというふうに考えております。
 最後に、この質疑応答で、私、特にこの検討委員会でも御意見を申し上げた点が、我が国産業の今後の喫緊の課題は、やはり産業の活性化に人材の移動がどうしても必要なんですね。御案内のように、新日鉄や日産が何千人、万単位のダウンサイジングで人の雇用調整をやる。逆に中堅・中小は、通産省が言うように、新しい事業に進出しないと生きていけないですね。要するに自動車、家電がどんどんASEANにリプレースしていますから、空洞化していますから、そうすると新しい技術者なり新しい人材が必要になる。
 その辺の流動化を、さっき島田先生もおっしゃいましたが、職業紹介は女衒ややくざが利用するからあくまで官がやるんだというそのポジティブリストじゃもう通らぬわけでございまして、これは労働省等にぜひともネガティブリストで、原則自由、これとこれは国が管理するというふうに変えていただきたいということを後ほど詳しく申し述べたいと思うのですが、私の方から意見が申し上げられませんので、ぜひ質問をいただければこれに対してお答えしたいと思います。
 もう一つは、証券市場ですね。要するに日本のバブルが崩壊しまして、ほとんど中小企業は担保価値が下がりました。したがって、銀行は金を貸してくれない。そうすると、間接金融ではどうにもならぬわけですね。そこで、今後この不況の中から、あるいは新しい構造転換に向かって中堅・中小企業が仕事を進めていくためには、どうしても低利の安定した資金が必要になる。それを直接金融である証券市場からぜひとも調達さすべきだ。
 一説によりますと、国民の貯金というものは一千兆あると言われているのですね。この辺をいかにうまく、アメリカのNASDAQのように証券市場に誘導するか。その金が新しい産業の開拓に立ち向かう中堅・中小企業に回れば、これは大きく産業の活性化につながるものと私は思いまして、この辺も大蔵省の規制がNASDAQあたりと比べまして、形式基準はほぼ同じと言われていますが、実際の実質基準は、公開された企業の数字を定量化してとりますと、アメリカの十倍から二十倍の高さにバーがあるわけでございまして、これでは活性化のしょうがないわけですね。この辺も、ぜひともひとつ政治家の先生方に踏み込んでいただきたい点であると思います。
 以上です。(拍手)

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経済審議会企画部会(第7回)議事次第日 時 平成11年3月5日(金) 10:00〜12:00
場 所 共用特別第二会議室(407号室)経 済 企 画 庁
「新たなる時代のあるべき姿」の基本的考え方について
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経済審議会企画部会委員名簿
部会長   小 林 陽太郎   富士ゼロックス株代表取締役会長
部会長代理 香 西   泰   (社)日本経済研究センター会長
委 員   跡 田 直 澄   大阪大学大学院国際公共政策研究科教授  荒木 襄 日本損害保険協会専務理事
      伊 藤 進一郎   住友電気工業(株)専務取締役     角道 謙一 農林中央金庫理事長
      小 島   明   (株)日本経済新聞社論説主幹      小長 啓一 アラビア石油(株)取締役社長
      佐々波 楊 子   明海大学経済学部教授   ポール・シェアード ベアリング投信(株)ステラテジスト
      嶌  信彦   ジャーナリスト     高 橋 進 (財)建設経済研究所理事長
      長岡  實   東京証券取引所正会員協会顧問,日本たばこ産業株顧問  中西真彦 ベンカン(株)社長
      那須 翔   東京電力(株)取締役会長     樋口 美雄 慶応義塾大学商学部教授
      星野 進保  総合研究開発機構理事長    堀 紘一   ボストン・コンサルティング・グループ社長
      松井 孝典   東京大学理学部助教授    水口 弘一  (株)野村総合研究所顧問
            村 田 良 平   (株)三和銀行特別顧問,外務省顧問
      八 代 尚 宏   上智大学国際関係研究所教授
      吉 井   毅   新日本製鐡(株)代表取締役副社長
      吉 川   洋   東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
      鷲 尾 悦 也   日本労働組合総連合会会長
特別委員  岩 城 秀 裕   (株)野村総合研究所経済構造研究室長
      大 野 直 志   日本開発銀行国際部副長
      大 前 孝太郎   経済戦略会議事務局主幹
      金 光 隆 志   ボストン・コンサルティング・グループ プロジェクトマネジャー
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出席者(部 会) 小林陽太郎部会長、香西泰部会長代理
荒木襄、伊藤進一郎、角道謙一、小島明、嶌信彦、高橋進、長岡實、中西真彦
那須翔、樋口美雄、松井孝典、水口弘一、村田良平、八代尚宏、の各委員
岩城秀裕、大野直志、大前孝太郎の特別委員
(事務局) 堺屋経済企画庁長官、今井政務次官、塩谷事務次官、林官房長、
中名生総合計画局長、高橋審議官、牛嶋審議官、梅村企画課長、大西計画課長、染川計画官、渡辺電源開発官他
経済審議会企画部会(第8回)議事録時:平成11年3月24日 所:共用第二特別会議室(407号室)
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経済審議会企画部会(第8回)議事次第日 時 平成11年3月24日(水) 14:30〜16:30
場 所 共用第二特別会議室 (407号室)1.開 会  2.「新たなる時代のあるべき姿」の基本的考え方について3.閉  会 
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(配布資料) 資料1企画部会委員名簿資料2 我が国の国家像についての意見集計資料
3「新たなる時代のあるべき姿」を考えるにあたって採点、もっとがんばります−政治家にも「通信簿」

 東京商工会議所元副会頭の中西真彦・ベンカン社長は、そんな取り組みを続け
ている。第一段の成果が昨年末、「国会議員の公約と行動」(四谷ラウンド)と
題して出版された。全議員のそれぞれの経歴、選挙公約、委員会の出席率や発言
要旨、「何にもっとも力を注ぐのか」というインタビューへの回答、政治資金の
収支報告などを集めた厚手の本に仕上がった。

 政治家にも「通信簿」があれば、もうすこし勉強するだろう。これが中西氏が
制作を思いついたひらめき。企画段階では税制改革や規制緩和などへの考え方も
聞いて、政策で政治家が選べるガイドブックにするつもりだった。しかしこれを
東商で提案すると、まず通産省OBの役員から「(国民が)政治家を採点するなん
て、とんでもない」と猛反対を受ける。その結果、予算も人もままならず、中途
半端な内容になってしまった。

 民主主義の根本は、「民」が「政」や「官」をきちんとチェックするシステム
を持ち、それが機能することである。どうやら東商役員の皆さんは、本来あるべ
き姿をご存じないらしい。第二段を編集中の中西氏の元には、経済人や学者を始
とする応援団が、ぞくぞくと詰めかけているという。


担当/佐藤一郎〒100-0013東京都千代田区霞が関1−4−2大同生命霞が関ビル17階
TEL:03-3519-1215E-mail:cfi@financialweb.gr.jp

会員は、一定の金融知識を有している方であれば、業種・業態を問わず、どなたでも
金融イノベーション会議の会員に応募することができ、理事会の承認を得て会員とな
ることができます。
賛助会員は、金融イノベーション会議の趣旨と活動に賛意を示す法人企業より募集を
行ないます。会員/賛助会員の規約につきましては、こちらをご覧ください。
E-mailアドレス の受付:cfi@financialweb.gr.jp


 「21世紀を担う学術文化の振興と大いなる産業の発展を願って」
   財団法人 国際科学振興財団 会長 中西真彦
 
中西真彦
 私は政府の行政改革委員会規制緩和小委員会の参与として職業紹介の自由化の実現に力を注ぎ、何とかそれを実現できた。 この委員会を通して表面ではまだそう大きな動きは確認できないが、地下では規制緩和のマグマは激しいエネルギーで動き出していることを実感している。 日本人は賢明であることを確信し、私自身もこの大きなエネルギーを表面化できるよう精一杯がんばってみようと思っている。

 今、我が国は国家の運営方針を180度変換せざるを得ない岐路にさしかかっている。第二次大戦後、日本は”広くあまねく平等”という哲学にたち、世界に冠たる福祉国家として一億総中流階級国家として形成されてきた。そうした輝しき成果を経てきたわけだが、しかしその弊害もでてきた。


 福祉国家という平等社会はやはり官の肥大化と非効率という問題もはらんでいる。純公務員(外郭団体は入っていない)全体で440万人という膨大な人数と経費は国民の大きな負担になっている。たとえて言えばシビリアンコントロールが効かなくなってしまった旧軍部のようなものである。 

 また、もう一つの問題は平等社会を追求するあまり市場経済が効かなくなってしまったということである。私は国家の歩みでも人の歩みでも左足ばかりではバランスが悪く、左足を前に出せば次は右足を前にだすという至極当然の振る舞いが大切だと思う。すなわち社会の平等化が進めば次は自由競争時代がやってきてやがては又平等化の時代がやってくる。このように陰陽が交互に来るような社会発展が我々の日本にとってバランスのよい永続性のある未来創造につながってゆくのではないだろうか。

 私たちが直面している”超高齢化”社会を迎えて、このままの状態で進むと国家運営にかかる国民負担率があっという間に50%を越える可能性が強い。国民が特に若者が日本からの逃避を考え出すとすれば、その国家の衰退はもはや確実のものとなる。このままでは産業経済がますます厳しくなるのは誰の目にもはっきりしているわけだから、政府はなんとしてもスリム化し、相当効率のいい国家運営をめざさなければならない。次回以降こうした諸問題を私の視点から掘り下げてゆきたいと考えている。

「財政の抜本的見直し」
中西真彦

 私はかねてから「政官民が一つとなって、今こそ勇断をもって構造改革にあたらなければ、日本の明日はない」といって回っているが、今や制度の名に値しない財政投融資制度に改革のメスをいれなければ、日本の明日はさらに暗くなるだろう。


 橋本首相の「財政投融資制度について抜本的な見直しをせよ」という指示で、大蔵省の資金運用審議会(蔵相の諮問機関)に懇談会が設置され、いよいよ本格的な検討が始まった。私もそのメンバーとして審議に参加しているが、常々喫緊の課題であることを痛感する。

 財政投融資の予算は、一般会計の7割に匹敵する50兆円の規模に達し、運用残高は4 00兆円に膨らんでいるが、運用は大蔵省理財局資金運用部の手中にあるため、その実態はきわめて不透明と言わざるを得ない。

 そこで、財投に対する抜本的見直しのキーワードをふたつ挙げたい。まず第一に、マーケットメカニズムの導入である。郵便貯金の残高は200兆円を超えているにもかかわらず、マーケットメカニズムの外にあるという構図はあまりにもいびつであり、金融ビックバンが騒がれている時代にそぐわないであろう。

 第二に、民間並のディスクロージャーの実施である。財投資金がわが国の社会資本の充実に一定の役割を果たした事実は認めるが、しかしながら国民にとって重要な社会資本整備に使われる財投予算が、国会の審議にすらかけられないという姿は正常でない。財投システムのあるべきグランドデザインを描き、それに基づきどうあるべきかを徹底的に議論すべき時期にきている。それには財投の入口である郵便貯金の抜本的見直しは避けられまい。

郵貯の自主運用を認め、民営化を前提に分割するのも一つの方向だろう。そうなれば、特殊法人の存在自体も問われてくるわけであり、その心臓部である理財局運用部の役割も自ずと変化せざるを得ないというわけである。
 日本は今、まさに分水嶺の上であり、良くなるか悪くなるかは、ここ3、4年の構造改革のあり方いかんにかかっている。その改革の最もであることを改めて強調しておきたい。
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平等主義と自由主義のバランスを考える

中西真彦
 今年の春、自民
党本部に我々が呼ばれたとき、ある議員が「あなた方は自由競争はいいと言うが、それは弱肉強食の論理で、自民党にはなじまない」とかみついてきた。
 そこで私は次のように説明した。
 「旧ソ連がなぜ崩壊したのかと言えば、つまるところ平等の理念だけをマグナカルタ(大憲章)にし、自由を全て追放したからであり、能力あるもの、働くものはそうでないものと同じ報酬でしかない。その結果労働意欲がなくなった。人間社会にとって必要なマグナカルタは平等だけでなく、自由だけでもない。つまり、両立主義なのである」と。

 昭和40年代半ば(1970年前後)頃までは両方のバランスがうまく取れていた。しかしながら、その後、左足(平等)を前に出しすぎたのに、右足(自由)をバランスよく出さなかったのである。たとえば、社会保障の面で現在、年金、福祉、医療の財政が破綻しているのは何よりの証拠だ。
 左足を出しすぎた理由の一つは官が肥大化し、自己増殖したからだ。彼らの行政哲学は、広くあまねく平等に予算をばらまくことを社会正義と考えているのだ。零細農家をつぶさないために予算を全国にばらまく農水省、財政が左前になった地方自治体に地方交付金を手厚く交付し、努力している自治体には一銭も出さない自治省。まさに旧ソ連と同じである。
 それゆえに今するべきことは思い切った自由化である。具体的な一例として、日本のコストを高くしている物流とエネルギーの問題がある。特に内航海運のコスト高は驚くべきことだ。電気料金も日本産業の足を引っ張っている。米国の2倍である。まず、発電を自由化し、送電網をインフラとして自由に使わせる仕組みを検討する必要がある。
 又、こうした我々の意見に対しての非難には、秩序の維持、協調、規制が必要だというのがあるが、全て自由競争が良いと言うわけではない。 この種の議論は時間軸を考えて議論しなければならない。20年後には今度は左足を出さなければならないときもあるかもしれないからだ。 

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構造改革は「構造」の改革であらねばならぬ 中西真彦

 橋本龍太郎総理によって六つの構造改革が叫ばれ、行政改革会議、財政構造改革会議、行政改革委員会など、さまざまな取り組みの舞台装置は設置されたが、問題はその検討の中身が真に「構造」の改革になっているかどうか。表面的な単なる組織の整理統合であり、看板の架け替えに終わってないか。あるいは痛みを避けて問題を先送りしただけにとどまってないか。国民はしっかりと擬視し、まぎれもなく「構造」の改革がなされているかどうかを見定めるべきである。たとえば財政構造改革においては構造改革といいながら公共事業やウルグアイランド対策費を含む農業関係費など、族議員の力強い項目については計画期間を先延ばししただけで事業の優先度や必要性の中身に立ち入ってない。これでは在来の「シーリング方式」とまったく変わらず、予算の支出の「構造」には切り込まれてなく問題を先送りしているだけだといわざるを得ない。

 さらには第2の予算といわれ、伏魔殿とも称されてきた財政投融資制度の改革には及び腰の気配がうかがえる。この問題は財政投資金の出口が特殊法人群であることから、行革に深く関わってくるし、この出口を改革すれば、同時に心臓部である大蔵省の資金運用部そのもののあり方が見直されなければならない。そしてそのことは資金の源資である郵貯、年金、簡保のうち、特におおきな郵貯をいかに扱うかという問題に突き当たらざるを得ない。
郵貯、郵政省をどうするかが今の行政改革の最終論点となる。
 郵貯問題は自民党にとってある意味で聖域でありタブーであろうが、避けては通れない道である。財政融資制度の改革をここで詳しく述べる紙幅はないが、ポイントを述べれば、巨大な運用銭を抱えているがゆえにその改革は段階的にやらざるを得ない。まず向こう3年程度の間に入り口、中間、出口を分断し、郵貯、簡保等については定額建分と満期到来分は全額自主運用に移行させる。その先に民営化もみえてくる。出口期間についても自主調達、自主運用に移行させるべきであろう。そして入り口、出口期間のそれぞれに民間の会計原則を適応し、ディスクロージャーを徹底させるのである。

 郵政省は「郵貯はユニバーサルサービスを果たすベーシックバンクだ」として必要であるという。また「民業の圧迫と民間金融機関は言うが、郵貯は国民が選んでいる権利だ」とも言う。が、しかしながら財投制度は市場経済の規律を弛緩させている。そのことはまだ将来世代への負担の付け回しであり、続けるべきことではない。金融システム改革、いわゆるビックバンとも不整合が明らかである。現行財投制度は、その内容がディスクローズされる「構造」の改革がされなければならない。まさに官の論理=左足が出過ぎてバランスを崩しているのであり、思い切って右足を前に出すべき時である。要は「構造」を改革して、効果的でかつディスクローズされたスモールガバメントを目指すことである。

 ここで強調しておきたい点がある。それは構造改革は総じて歳出削減等、デフレ効果をもたらし経済活動がシュリンクする結果、税収が落ち込むという悪循環に入る危険がある。それを避けるためには思い切った規制緩和や、法人税・所得税の減税によって民間部門の投資を促進させることである。通産省はこの観点から法人税の10パーセントの実質大幅減税の必要性を打ち出した。いまやグローバル経済の時代に突入し、企業がくにを選択する時代であるとともに、資本が企業を選別する時代に入っている。大蔵省も歳入・歳出の単年度主義という足かせを外し、大型減税によって経済活力を引出し我が国の中長期の発展への道筋をつけるべきであろう。そのための減税財源の一つには、当然厳しいまったなしの地方自治体も含む政府関係機関のリストラが求められていることは言うまでもない。    
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